Dear Prudence

哲学専修B4 間違いがあればご指摘いただけると幸いです。

ダイク「アイネイアースの議論:魂の人格性」『カントと合理的心理学』第5章(1)

  • Dyck, Corey W. “The Aeneas Argument: The Personality of the Soul” in Kant and Rational Psychology. New York: Oxford University Press (2014), 141-49.

第5章 アイネイアースの議論:魂の人格性

本章は三つの節に分かたれる。第1節では、魂の人格性についてのヴォルフの見解を提示する。これはロックの影響を受けつつも、人格性を、時間をまたいだ適当な同一性の維持によって解するのではなく、おのれ自身の同一性を意識する能力をもつ限りにおいて人間の魂に人格性の身分を与えるという点でロックから離れるものである。第2節では、ヴォルフ以後の人格性の論議を扱う。1770年代のカント自身による取扱いも、こうした伝統のうちに本来の位置をもつ。第3節では、カントが、第三誤謬推理で、魂の実体的同一性の推理に対してのみならず、ヴォルフ流の合理的心理学者が魂はおのれの数的同一性を意識している と想定した仕方に対しても反論してもいると論じる。

1 ヴォルフの合理的心理学における人格概念の定義と使用

[ロックとヴォルフの人格の定義。その共通点]

ロックは人格を「〔a〕理性と反省を有し、〔b〕自分を相異なる時と場所において同一の思考する存在者とみなすような、思考する知性的存在者」(『人間知性論』II, xxvii, 9; 335)と定義した。 ヴォルフはそれを「それに先立ってしかじかの状態であったものとまさに同じものであると意識するもの」(DM §924)とする。この定義は、〔b〕同一性の意識が人格性にとって本質的であるとする点でロックのそれと共通している。加えて、ヴォルフの枠組みでも、〔a〕相異なる時点におけるおのれの同一性の意識は、理性と反省を必要とする。

[ヴォルフの人格性理解の特性(1)スコラ的な実体連続性]

もっともヴォルフは、魂を人格とみなすことは、人格は「単一の生ける実体、それゆえ知性を与えられた〈下に置かれたもの〉(singular, living substance and so a suppositum endowed with an intellect)」であるとするスコラの主張と両立すると論じる(PR§741)。つまり、同一性の意識は、人格としての我々の同一性を構成するものではなく、むしろ我々の同一性――これは実体の連続性に存している――であるものの意識(contiousness of what is, in fact, our identity, where this identity is simply assumed to consist in the continuation of substance)である[にすぎない]。

[(2)不死性⇔〈魂の身体消滅後存続〉かつ〈判明な知覚(⇔自己同一性の意識)〉]

ヴォルフの概念の弁別的性格は、人格性の問題が取り上げられたのが、不死性の論議においであったという点にもある。単純な実体として、魂が破壊されうるのは瞬間的な無化(DM §922, TR§732)によってのみである。それゆえ魂は不壊的である*1。それゆえ身体と共に消滅することはない(PR§730)。神のごとき十分な力能のある存在者なら身体の死後に魂を無化しうるが、これには十分な理由がない (PR§744)。それゆえ魂は身体消滅後も存続する。

魂の存続に、判明な知覚を合わせると、不死性の十分条件となる。ヴォルフは予定調和説を支持しつつ、現世の曖昧で混雑した知覚が、身体の消滅後により明晰判明になることを疑う理由はほとんどないと結論する(DM§925, PR§745)。さらに、身体消滅後も判明な知覚を持ち続けるのであれば、魂はおのれ自身を意識し続けているのでなければならない。というのも、判明な知覚状態とおのれ自身の意識とは相互含意的だからである(PR§13)。加えて、身体消滅後に我々のもつ諸知覚が、身体的生活におけるそれらと何らか共通点をもつなら*2、後者は再生される。そして記憶によって、我々は我々がその知覚を以前にもっていたことを想起する(PE§173, 175)。それゆえ身体消滅後も魂は自らが同じ魂であり続けていることを意識し、人格性の条件を満たす(PR§746)。かくしてヴォルフは魂の不死性を結論する(PR§739, 747)。

*1:メンデルスゾーンによるこの種の議論に対してカントは、魂が度をもつことを論拠に反論する。

不壊性と不死性の区別はクレンメの指摘するところでもある。

*2:どういう共通点だろうか。